宿泊施設のリピーターを増やす工夫|開業前に整えておきたい仕組みづくり

第八番地

結論から言うと

宿の開業を検討している方が本当に知りたいのは、「どんな設備を作るか」よりも「一度来た人にもう一度選んでもらえるか」だと思います。

結論から言うと、リピーターは「良い体験をした人」ではなく「また来る理由を持って帰った人」から生まれるというのが私の結論です。接客の丁寧さや部屋の綺麗さは前提条件であって、それだけではリピートにはつながりません。次に来る具体的な理由(季節が変わったら見える景色、次に頼みたいメニュー、次に使いたい設備)を、滞在中に顧客自身の頭の中に作れるかどうかが分かれ目です。

この記事では、開業前の段階から設計しておくべきリピーター獲得の考え方と、具体的な仕組みづくりについて整理します。

この記事でわかること

・滞在中より滞在後が肝心
・リピーター獲得するための工夫
・大手のやり方は通用しない

リピーターは「滞在中」ではなく「滞在後」に決まる

多くの方は、リピーター対策を「滞在中の満足度を上げること」だと考えがちです。もちろんそれも必要ですが、実際にもう一度予約するかどうかは、滞在が終わったあとの記憶の中で決まります。

整理すると、リピーター獲得は次の3段階に分けられます。

滞在前:期待値を適切に作る(過剰な期待は失望につながる)
滞在中:記憶に残る体験と、次回への伏線を作る
滞在後:思い出したタイミングで再訪の入口を用意する

開業準備の段階でよくあるのは、1と2にばかり力を入れて、3の「滞在後の導線」を後回しにしてしまうことです。

具体的な取り組み

「毎回同じ体験」ではなく「毎回違う体験」を用意する

同じ部屋、同じサービスでは、二度目の予約理由が生まれにくくなります。季節限定の企画や、宿泊者だけが体験できる小さな変化(その季節にしかできないアクティビティ、期間限定のメニューなど)を用意しておくと、「次はいつ行こうか」という発想につながりやすくなります。

たとえば、うちの宿では薪ストーブを入れているのですが、この設備は冬季限定で稼働するものとなっています。夏に来た人が、また冬も違う楽しみ方があると感じられるようにしています。また、BBQスペースはおもに夏場利用が多くなります。こうした季節ごとに利用シーンが変わる仕組みを作り、リピーター獲得につなげています。

宿泊者との接点を「宿泊中」だけで終わらせない

チェックアウト後に接点が切れてしまうと、思い出す機会がないまま忘れられてしまいます。宿泊者が任意で登録できるメルマガやSNSアカウントのフォローなど、負担の少ない形で接点を残しておく設計が重要です。

ここで注意したいのは、頻繁な売り込みは逆効果になりやすいという点です。再訪を促す情報発信は、宣伝色を薄くして、季節の様子や運営者自身の日常を伝えるくらいの温度感が続けやすいと考えられます。

たとえば、キャンプ場においてのSNSについては、宣伝は基本的にしないようにしています。その場の様子、景色やキャンプしている人の様子などを載せて、また行きたいな~と思ってもらえるくらいの投稿をするようにしています。

「次回使える理由」を滞在中に手渡す

会員証や次回割引券のような分かりやすい仕組みだけでなく、「次に来たらこれを試してほしい」という具体的な提案を、滞在中の会話の中で自然に伝えることも有効です。人から直接勧められた体験は、広告よりも記憶に残りやすい傾向があります。

ただ、私はこの施策を実行しているわけではありません。なぜかというと、割引券や会員証といったものを気軽に使えるほど、都市部から近いわけではないからです。こうした施策はリピート率を上げるにはいい手段ではあると思いますが、ご自身の施設の都合や立地や環境で判断するのがいいのではないでしょうか。

単一の宿泊体験で完結させず、複数の収益導線を用意する

宿泊だけでなく、サウナや飲食、物販など複数の体験を用意しておくと、「前回泊まったときはサウナだけだったから、次は違う体験をしたい」という再訪理由が生まれやすくなります。これは一般論として、単一サービスの宿より複合的な施設の方がリピート導線を設計しやすいと言われる理由でもあります。

比較:リピーター施策のタイプ別整理

施策タイプ 費用感 効果が出るまでの期間 向いている宿のタイプ
季節ごとの企画・体験変化 低〜中 比較的早い(次シーズンから) 個人運営・少人数運営の宿
SNS・メルマガでの接点維持 中期(半年〜1年) 発信を継続できる運営者
会員証・割引券などの仕組み化 低〜中 早い リピート率を数値で管理したい宿
複数事業の展開(飲食・物販併設) 中〜高 長期(1年以上) 複合的な施設運営を目指す宿

どの施策が正解というより、運営者自身が無理なく継続できる施策から始めることが、結果的にリピーター獲得の近道になると考えられます。

「成功事例」を探すときに知っておきたいこと

ここまでリピーター施策について整理してきましたが、「宿泊施設 リピーター 事例」といった形で情報を探すと、出てくるのはほとんどが大手ホテルチェーンや旅館グループの事例、もしくはコンサルティング会社やシステムベンダーが自社サービスの紹介とセットで書いている記事です。「1:5の法則」(新規顧客獲得コストは既存顧客維持の5倍)のような数字はよく引用されますが、「どこの宿が、具体的にどんな施策で、リピーター率が何%から何%に上がったか」まで裏付けとともに書かれているものは、実はあまり多くありません。

そして、個人運営の宿やキャンプ場に近い規模感での事例は、探してもほとんど見つからないというのが実感です。大手の事例は、専属のマーケティング担当者やPMS(宿泊管理システム)、LINE公式アカウントの運用体制など、個人運営では前提が異なる仕組みの上に成り立っているものが多く、そのまま参考にできる形にはなっていません。

つまり、大手施設向けの「正解」と、個人運営の宿にとっての「現実的にできること」は、そもそも手法として別物だと考えたほうがよいのでは、というのが私の見解です。

個人運営の宿が強みにできるのは、大がかりなシステムや専任担当者ではなく、運営者自身が宿泊者一人ひとりと直接向き合える距離の近さです。したがって、大手の事例をそのまま真似るのではなく、「なぜその施策が効くのか」という考え方の部分だけを参考にして、自分の宿の規模に合った形に落とし込む視点が必要になります。

よくある失敗

失敗1:滞在中の満足度だけを追求し、滞在後の接点を作らずに終わる

丁寧な接客や設備投資に力を入れても、チェックアウト後に思い出すきっかけがなければ、記憶は徐々に薄れていきます。滞在中に「また来てください」と伝えるだけでは、具体的な行動にはつながりにくいです。

失敗2:リピーター施策を後回しにし、新規集客ばかりに力を入れる

開業直後はどうしても新規の集客に意識が向きがちですが、新規集客だけに依存する経営は、集客コストが継続的にかかり続けるという課題を抱えます。開業前の段階から、リピーターを生む仕組みを設計に組み込んでおくことで、後からの立て直しが不要になります。

FAQ

Q1. リピーターを増やす施策は、開業前と開業後のどちらから始めるべきですか? 開業前の設計段階から意識しておくことをおすすめします。滞在後の接点作りや複数の収益導線は、後から追加するよりも、最初の事業計画に組み込んでおいた方が無理なく運用できます。

Q2. 個人運営で人手が少なくても、リピーター施策は実行できますか? 可能です。むしろ個人運営だからこそ、運営者自身の言葉で発信する接点作りは大きな武器になります。ただし、継続できる範囲の施策を選ぶことが前提になります。無理な頻度でのSNS更新や過剰な特典設計は、長続きせず途中で止まってしまうことが多いです。

Q3. リピーター率はどれくらいを目安に考えればよいですか? 宿泊業の一般的なリピーター率は施設の立地やコンセプトによって大きく異なるため、一律の数字を目安にするのは適切ではありません。自施設の初期のリピーター率を記録し、そこからの伸びを追う形で管理するほうが実態に即した指標になります。

まとめ

リピーターは、良い滞在体験の結果として自然に生まれるものではなく、「また来る理由」を意図的に設計して初めて生まれるものです。開業を検討している段階から、滞在後の接点作りと複数の再訪理由を用意しておくことで、開業後に新規集客だけに頼らない経営がしやすくなります。

まずは、自分が無理なく続けられる接点作りを一つ選び、開業計画の中に組み込んでみてください。

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