一棟貸しの宿を始めようとしたとき、多くの人が悩むのが「宿泊料金をいくらにすればいいのか」という問題です。
ホテルや旅館のように似た物件が周辺に何件もあるわけではなく、間取りも設備も一軒ごとに違う一棟貸しは、そもそも「相場」という考え方がなじみません。近くの宿を参考にしようとしても、部屋数も設備も体験価値も違うため、単純に比較できないのが理由だと思っています。さらに、開業前は稼働率のイメージが持てないまま「とりあえず1泊◯万円」と感覚で決めてしまい、後から「思ったより利益が残らない」と気づくケースも少なくありません。
結論から言うと、宿泊料金は「固定費+変動費+利益」を積み上げて原価から逆算し、そのうえで周辺の宿や似た施設の価格帯と照らし合わせて調整するのが基本の考え方ではないでしょうか。特に開業初年度は稼働率を高く見積もりすぎないことが、価格設定を誤らないための重要なポイントになります。
この記事でわかること
・固定費・変動費の考え方と何を計算に入れるべきか
・シーズン制・曜日制など価格体系の比較
・価格設定でよくある失敗
・開業前によくある疑問への回答
価格設定の基本的な流れ

一棟貸し宿の価格設定は、大きく分けると次の3つの要素の掛け合わせで決まります。
2.稼働率:年間でどれくらいの日数が埋まるかの見込み
3.市場感:周辺の似た体験を提供する宿の価格帯
多くの人はこの3つ目の「市場感」だけを見て価格を決めようとしますが、それでは自分の宿の原価を回収できるかどうかが分かりません。まずは原価と稼働率から「最低限これくらいは必要」という下限ラインを出し、そのうえで市場感と照らして上振れを狙えるかを検討する、という順番が大切です。
価格設定の手順

- 固定費・変動費を洗い出す
まずは月々・年間でかかる費用をすべて書き出します。
- 稼働率を保守的に見積もる
開業初年度は認知度も口コミも少ない状態からのスタートになります。理想の稼働率ではなく、達成できなかった場合でも赤字にならないラインを基準に考えることが重要です。
- 競合となる宿をリサーチする
同じエリア、あるいは近い体験価値(古民家、サウナ付き、一棟貸しなど)を提供している宿の価格帯を調べます。単純な価格だけでなく、定員人数・設備・食事の有無なども合わせて比較すると、自分の宿がどの立ち位置に入るかが見えてきます。
- シーズン・曜日で価格に差をつけるか決める
需要が集中する時期(連休、夏季、紅葉シーズンなど)と閑散期で同じ価格にするか、変動させるかを決めます。基本的には変動させるほうが良いと思います。
- 損益シミュレーションで検証する
決めた価格と稼働率想定をもとに、月次・年間の売上と費用を試算し、利益が残る水準かどうかを確認します。
費用の考え方

一棟貸し宿の運営でかかる費用は、大きく「固定費」と「変動費」に分けて整理すると考えやすくなります。
| 区分 | 主な項目 |
| 固定費 | 家賃・ローン返済、火災保険・施設賠償保険、通信費、サブスクリプション(予約管理システムなど)、基本料金部分の水道光熱費 |
| 変動費 | 清掃費、リネン・アメニティ費、消耗品、OTA(予約サイト)手数料、宿泊者数に応じた光熱費の増加分、決済手数料 |
固定費は稼働の有無にかかわらず発生するため、「稼働率がゼロでも毎月これだけは出ていく」という金額を把握しておくことが、価格設定の土台になります。
価格戦略

高価格・低稼働率を狙う戦略
メリット:清掃や消耗品などの変動費負担が抑えられる、少ない稼働でも利益を残しやすい
デメリット:認知度が低いうちは予約が埋まりにくく、固定費を回収できないリスクがある
低価格・高稼働率を狙う戦略
メリット:予約が入りやすく、口コミやリピーターを増やしやすい
デメリット:清掃回数が増えるため変動費もかさみ、利益率が下がりやすい
どちらが正解というものではなく、固定費の重さや、自分がどこまで稼働に対応できるか(清掃や対応を自分でやるのか、外部委託するのか)によって向き不向きが変わります。
価格設定でよくある失敗
失敗1:稼働率を楽観的に見積もりすぎる 開業前は「週末は埋まるはず」と考えがちですが、実際には認知度がない状態からのスタートになるため、想定より稼働が伸びないことがあります。稼働率を高く見込んだ価格設定をしてしまうと、想定を下回った際に固定費すら回収できなくなるリスクがあります。
失敗2:周辺の宿の価格だけを見て決めてしまう 自分の原価を計算せずに「近くの宿がこの価格だから」という理由だけで価格を決めると、清掃費や光熱費の増加分を織り込めておらず、稼働が増えるほど利益が薄くなるという逆転現象が起きることがあります。
FAQ
Q1. 一棟貸し宿の価格は最初にいくらに設定すればいいですか? 決まった金額の目安はありません。まずは固定費・変動費を洗い出し、想定稼働率で割った際に利益が残る金額を下限として設定し、そこに周辺の宿の価格帯や自分の宿ならではの体験価値(設備、景観、サウナの有無など)を加味して調整する、という考え方が基本になります。
Q2. 価格を途中で変更してもいいのでしょうか? 多くの宿でシーズンごと、あるいは稼働状況を見ながら価格を見直す運用がされています。ただし、既に受け付けている予約の価格を後から変更することは通常できないため、変更のタイミングと反映範囲は事前に整理しておく必要があります。
Q3. 一棟貸しは何人からの料金で設定するのが一般的ですか? 物件の定員や間取りによって異なりますが、基本人数(下限人数)を設定し、それを超える人数については追加料金を設定する形が広く採用されています。
まとめ
一棟貸し宿の価格設定は、「相場を真似る」のではなく、「自分の宿の固定費・変動費・稼働率から利益が残る水準を逆算し、そのうえで市場感と照らして調整する」という順番で考えることが基本になると考えています。開業初期は稼働率を保守的に見積もり、赤字にならない下限ラインを把握したうえで、シーズンや曜日による価格の変動を設計していくと、無理のない運営につながります。
