はじめに
「地方で古民家を活用した宿泊業をやりたい」「キャンプ場やサウナに興味がある」と考えている方の多くが、次にぶつかる疑問はこれだと思います。
「一つの事業だけで本当にやっていけるのか」
私自身、キャンプ場と古民家サウナの宿泊施設を多角経営しており、現在はそこにカフェを併設する準備を進めています。
正直なところ、キャンプ場ひとつでなんとかしたいという気持ちがありましたが、冬の閑散期に仕事がなくなると売上が全くありません。
単一の収益源だけでは簡単に揺らぐことを知りました。
結論を先に言うと、地方で小さな事業を長く続けたいなら、最初から「多角化前提」で事業設計をしたほうがいいということです。
ただし、無関係な事業を手当たり次第に増やすことではなく、「今ある資産(土地・建物・スキル・関係性)を別の収益軸に転用する」ことが一番合理的だと感じます。
ただし、私自身の多角化は、キャンプ場・宿・カフェという店舗型ビジネスへの偏りが強いと自覚しています。店舗型は自分が現場にいないと回らない・体力と時間を投下し続ける必要があるという制約を抱えています。
こういう店舗型の多角化にはメリットもデメリットも多くあります。
この記事では、自分なりの店舗型を軸にした多角化の考え方について整理し、その限界と「情報・スキルを資産化する」という別の方向性についても考えていきたいと思います。
この記事でわかること
・多角化を始める順番と優先順位の考え方
・多角化にかかる費用・期間の目安
・よくある失敗パターン
・店舗型多角化の限界と、次に検討すべき方向性
なぜ地方の小さな事業は「一本足打法」が危険なのか

地方で事業をしていると、都市部とは違うリスクに常にさらされます。
・季節によって需要の波が大きい(特に観光・宿泊系)
・インフラ・設備トラブルが発生しても代替手段が少ない
・一つの取引先・チャネル(例:Airbnbのみ)への依存度が高くなりやすい
これらは都市部であれば「別の客層」「別のチャネル」で簡単に補えることが多いのですが、地方では選択肢自体が少ないため、一つの収益源が止まると事業全体が止まりやすい構造になっています。
たとえば、私の場合ですが、
キャンプ場は4月~12月の稼働です。
1月~3月は積雪のため営業ができません。
さらに、6月は梅雨で閑散期となるといった状態でした。
そこに、別で宿泊施設の運営を始めたのですが、こちらは通年営業・天候の影響をほぼ受けない強みを持っています。さらに、キャンプ場の整備で出た間伐材を宿のサウナの薪にすることができています。
こうしたことによって、収益の安定とリスク分散ができるようになりました。
多角化の考え方

多角化と聞くと「全く別の事業を新しく始める」というイメージを持つ方が多いのですが、地方の個人事業主が目指すべき多角化はもっと地に足のついたものがいいと思っています。
・既存の顧客接点を別の商品に広げる(同じゲスト・同じ集客チャネルを使う)
新しく土地を買う、新しく許認可を取る、といった大きな投資をする前に、まず「今持っているもので何ができるか」を整理することが先ではないかと考えます。
店舗型事業を軸にした多角化の具体的な選択肢

多角化の方向性を比較してみました。
| 多角化の方向 | 必要な追加投資 | 立ち上げの難易度 | 既存事業との相性 |
| サウナ・施設の時間貸し(日帰り利用) | 低〜中 | 低 | 高い(同じ設備を活用) |
| カフェ・飲食の併設 | 中〜高 | 中 | 高い(同じ来訪者に提案可能) |
| 体験コンテンツの販売(薪割り、郷土料理など) | 低 | 低 | 高い(同じゲストに提案可能) |
| 物販(地元産品・オリジナルグッズ) | 低 | 低 | 中 |
| 空き家・土地の追加取得 | 中〜高 | 中 | 中(運営ノウハウは流用可) |
| 情報・スキル販売(note、講座、コンサルなど) | 低 | 中〜高 | 高い(経験そのものが商品) |
サウナ・施設の時間貸し(日帰り利用)

宿泊客がいない時間帯に、サウナだけを日帰りで開放するモデルです。地域に住む人や近隣の観光客をターゲットにできるため、宿泊需要とは異なる需要を取り込めます。
ただし、公衆浴場としての扱いになるかどうかで許認可上の整理が必要になるケースがあるため、運用形態を決める前に必ず自治体への確認が必要です。
カフェ・飲食の併設
宿泊・キャンプ場の利用者だけでなく、近隣住民や日帰り客にも開放できる業態として、カフェの併設は店舗型多角化の中でも相性が良い選択肢ではないかと思います。
既存の来訪者に対して新しい滞在体験を提案できると同時に、施設に立ち寄るきっかけそのものを増やすことができます。
私の運営する宿の周辺に気軽に立ち寄れるカフェがないこと、宿泊客からチェックアウトにゆっくりできる場所がほしいという需要の声があったこと、空き蔵があったことなどを理由にカフェ併設を進めることにしました。
一方で、改装コストがかかったり、人手が必要になることも課題となっています。
体験コンテンツの販売

宿泊・キャンプとセットで、または単体で販売できる体験コンテンツです。例えば、
- 薪割り・火起こし体験
- 古民家の歴史や建築の案内
- 郷土料理づくり
- サウナの正しい入り方・温冷交代浴のレクチャー
これらは追加の設備投資がほとんど必要なく、自分の知識やスキルをそのまま商品化できる点がメリットです。客単価を上げる手段としても有効です。
物販

地元の特産品や、施設オリジナルのグッズ(タオル、アロマ、サウナハットなど)を販売する方法です。来訪者がその場で購入する形と、オンラインで販売する形の両方が考えられます。単価は小さいですが、追加の手間が少なく始めやすいのが特徴です。
キャンプ場ではステッカー販売やシェラカップ、Tシャツなどを作り販売しています。
Tシャツはネットでも購入可能ですので、よかったらこちらからチェックしてみてください!(→おじろじろスタッフTシャツ)
空き家・土地の追加取得
最初の物件運営でノウハウが溜まってきた段階で検討する選択肢です。地方では空き家バンクなどを通じて、相場より安く物件を取得できる場合があります。ただし、これは投資額が大きくなるため、最初の事業が安定してから検討すべき段階ではないかと思います。

ここまで紹介した5つの選択肢は、いずれも「店舗・施設」を軸にした多角化です。
私自身、キャンプ場・宿・カフェという組み合わせはまさにこの店舗型の多角化にあたります。ただ、これらには共通の制約があります。それは、自分がその場にいなければ収益が生まれないという点です。これは経済学やビジネスの分野で「フロー型ビジネス」と呼ばれる構造で、時間と体力を投下し続けなければ収益が止まってしまいます。
情報・スキルの販売という選択肢

店舗型の多角化を一通り経験すると、次に見えてくるのが「自分の経験や知識そのものを商品化する」という方向性です。例えば、
・同じように地方で事業を始めたい人へのコンサルティング
・自分の運営経験を発信するブログ・メディア運営
実はこの記事自体も、私にとっては集客と収益を兼ねた情報発信の一部です。店舗型の事業で得た経験を文章という形に変換し、検索流入を通じて新しい顧客との接点を作っています。
こうした情報・スキル販売は、一度作ったコンテンツや仕組みが繰り返し収益を生む「ストック型ビジネス」に近い性質を持ちます。
時間を切り売りするアルバイトのような働き方(フロー型)と対照的に、自分の時間と体力を使い続けなくても収益が積み上がっていく点が大きな違いです。
このフロー型とストック型の違い、そして店舗型事業からストック型事業へどう移行していくかについては、論点が多いため別の記事で詳しく整理する予定です。
多角化を始める順番

多角化を考える際、すべてを同時に始めようとすると、どれも中途半端になりがちです。優先順位の考え方を整理します。
2.追加投資が小さいものから着手する:体験コンテンツや物販など、設備投資を伴わないもの
3.既存の顧客接点を使えるものを優先する:新しい集客チャネルを開拓する必要がないもの
4.投資額が大きいものは最後に検討する:空き家の追加取得など
この順番を逆にしてしまう、つまり本業が安定していない段階で投資額の大きい多角化に手を出してしまうのが、地方の個人事業主によくある失敗パターンではないかと思います。
費用の目安
多角化の方向性によって必要な投資額は大きく異なります。
- 体験コンテンツ・物販:数万円〜数十万円程度(消耗品・初期在庫など)
- 日帰り利用の整備:数十万円程度(受付体制・清掃体制の整備など)
- 空き家の追加取得:数百万円〜(物件価格・改修費用による)
地域や物件の状態によって差が大きいため、上記はあくまで目安として捉えてください。
期間の目安
- 体験コンテンツ・物販の立ち上げ:1〜3ヶ月程度
- 日帰り利用の体制整備:3〜6ヶ月程度(許認可確認を含む)
- 空き家の追加取得から運営開始まで:半年〜1年以上
メリットとデメリット

メリット
- 収益源が複数になることで、季節変動や予約の波の影響を受けにくくなる
- 既存の顧客接点を使えるため、新規の集客コストを抑えやすい
- 自分の経験・スキルをそのまま収益化できる選択肢がある
- 店舗型に偏っている場合は、情報・スキル販売を加えることで時間と体力への依存度を下げられる
デメリット
- 管理する事業が増えることで、運営の手間・時間的な負担が増える
- 中途半端に手を広げると、どの事業も収益が育たないリスクがある
- 許認可が関わる多角化(日帰り利用など)は、確認・対応に時間がかかる場合がある
よくある失敗
失敗1:本業が安定する前に多角化に手を出してしまう
宿泊業の予約がまだ不安定な段階で、別事業に時間とお金を投資してしまい、結果的にどちらも中途半端になるケースです。多角化は「本業の余力」で行うのが基本です。
失敗2:既存の客層と合わない事業を始めてしまう
例えば、静かな滞在を求める宿泊客がいる施設で、賑やかなイベント型のワークショップを同時開催してしまうなど、ターゲット層がぶつかり合う多角化は逆効果になることがあります。
失敗3:許認可の確認を後回しにする
日帰り利用や物販など、一見シンプルに見える多角化でも、自治体によっては別の許認可や届出が必要になるケースがあります。「とりあえず始めてから考える」と、後から運営の見直しを迫られることがあります。
失敗4:店舗型ばかりに偏ってしまう
キャンプ場・宿・カフェのように店舗を増やしていく多角化は、収益源を分散できる一方で、すべてが「自分がその場にいないと回らない」フロー型の事業になりがちです。事業数が増えるほど、自分の時間と体力がボトルネックになっていきます。
FAQ
Q1. 多角化はいつから始めるべきですか?明確な基準はありませんが、一般的には本業の予約が安定し、月々の収益の見通しが立つようになった段階から検討するのが無理のない進め方です。地域や事業内容によって状況は異なるため、自分の事業のキャッシュフローを基準に判断してください。
Q2. 多角化と専業、どちらが地方の事業として向いていますか?一概にどちらが優れているとは言えません。専業で深く特化することで強い専門性を持てる場合もありますし、多角化でリスクを分散できる場合もあります。自分の事業の需要構造(季節変動が大きいか、単一チャネル依存かなど)を踏まえて判断する必要があります。
Q3. 店舗型の多角化と、情報・スキル販売による多角化はどちらを優先すべきですか?どちらが優れているという話ではなく、性質が異なります。店舗型は時間と体力を投下し続けることで収益が生まれる「フロー型」、情報・スキル販売は一度作った仕組みが繰り返し収益を生みやすい「ストック型」という違いがあります。すでに店舗型の事業を複数持っている場合は、ストック型を組み合わせることでバランスが取りやすくなります。フロー型とストック型の違いについては、別記事で詳しく解説する予定です。
まとめ
私自身、キャンプ場・宿・カフェという組み合わせで店舗型の多角化を進めてきましたが、振り返ると「自分がその場にいないと収益が生まれない」事業ばかりになっているのも事実です。
たまたま、キャンプ場と宿の運営が安定してくれたので良かったですが、今考えると順序が逆だったなと感じています。
次のステップとして、こうした店舗運営の経験そのものを情報・スキルとして発信していくこと(このブログ記事もその一つです)に力を入れていきたいと考えています。

